同社のビジョンは、「辛い仕事をなくす」 「人手不足を解消し生産性を向上」 「美味しく健康な食品を提供する」の3つである。これらのビジョンは労働者、経営者、消費者それぞれの目線に基づいたもので、さまざまな視点から食産業全体の課題解決を目指している。

　創業当初はたこ焼きやソフトクリーム、そば、フライドポテトなどを製造する外食向け調理ロボットを手がけてきた。その後、コロナ禍を経て中食の需要が高まり、製造現場の労働環境の課題が深刻化したことを受けて、食品工場向けのロボット開発へと軸足を移した。特に惣菜などの中食産業は、扱う商品が多岐にわたり、食材の形態や量などが一定でなく、作業の大部分を人間が担う必要がある労働集約型の産業だ。沢登氏は、こうした労働集約型の食産業に革新を起こそうと、惣菜の盛付自動化ロボットの開発に着手した。

惣菜工場の製造ラインに設置された「DELIBOT」

　およそ半年間の開発期間を経て、2021年に登場した「DELIBOT」は、主にスーパーやコンビニ食品の製造ライン向けに展開している。開発は地道なデータ収集と分析を基盤とし、食品ごとの特性を反映したロボットハンドの設計とロボットコントロールに力を入れて取り組んだ。ポテトサラダなど柔らかく形の定まらない食品の盛付は高度な技術が求められるため、AIやセンシング技術を駆使し、惣菜の盛付を行うことのできる唯一無二のロボットを作り上げた。実際に導入されている大手スーパーの工場からは、ロボットの仕事ぶりに驚かれたり、ロボットに愛着を持ってもらえたり、良い反応があったという。現段階では、大手スーパーの工場が主な販売先であるが、将来的には工場の規模に関わらず、食産業全体で導入できるような汎用性の高いロボットの開発を目指している。

　より良い製品をつくるには、会社の枠を超えたつながりも重要だ。大学や企業が集積する多摩地域でロボット開発をすることについて、沢登氏は次のように話した。

　「多摩地域には高い知識を持つ優秀な学生がたくさん育ち、製造業の歴史もあります。人材が確保しやすく、産学連携や企業間の連携も取りやすい。また、ロボット開発に必要な広い土地が確保できるということも大きなメリットだと思います」

　同社では大学生のインターンシップを積極的に受け入れており、中にはそのまま卒業後に社員として入社する学生もいるという。

　ロボット業界の中でも惣菜の盛付ロボット開発に参入している企業は少なく、さらにスーパーやコンビニの工場への実装までを実現している企業は、世界でもほとんどないという。食産業にはまだまだロボットの導入を広げる余地が残されている。同社でも農業や水産業をはじめ第一次産業で活用できるロボットなど、食に関わるあらゆる産業のロボット開発を視野に入れ、日々技術を磨き続けている。

試行錯誤を経て開発したロボットハンドが惣菜を自在に操り盛り付ける

広がる食産業の未来

　今回紹介した2社は、食産業が抱える課題の解決を目指し、ロボット開発に取り組んできた。食産業におけるロボット導入や活用は、自動車産業などに比べると進んでおらず、その分この先ますますの発展が期待されている分野だ。どちらの企業も、多摩地域の強みである製造業の集積によるネットワークや、さまざまな大学や学生との共創、都心とも地方とも違う特長を持った立地などを存分に活かしたロボットづくりを通して、食産業に新たな変革をもたらそうとしている。（畑山若菜／編集：野村智子）