多摩けいざい

特集 多摩のうごきを知る

多摩地域発ロボットと歩む食産業の未来

2025年1月27日

ページ 2/3

国産配膳ロボットで飲食店を手助け/SOCIAL ROBOTICS株式会社


 まず紹介するのは、八王子市のSOCIAL ROBOTICS株式会社だ。同社が開発・製造する製品は、主に飲食店で来店客に食事や飲み物を運ぶ、配膳ロボットである。2015年に創業した同社は、同じ八王子市の株式会社菊池製作所のグループベンチャー企業の一つである。

 福島県に工場を構える菊池製作所では、東日本大震災以降、さまざまな形で復興支援を行ってきた。その一つが、東京大学と共同で進めてきたロボットの事業化を目指すプロジェクトであり、そこからスピンアウトして創業したのが同社だ。代表取締役の淺野滋あさのしげる氏は、大学院在学中に同社の創業メンバーとなり、2019 年に代表に就任した。

SOCIAL ROBOTICSの配膳ロボット「BUDDY」

 同社の配膳ロボット「BUDDY」には優れた免震機能が搭載されており、他社の配膳ロボットに比べて、飲み物を揺らさずに運べるのがアピールポイントだ。また、「BUDDY」は開発と製造を全て日本国内で行っており、各社の配膳ロボットの中で唯一の国産ロボットである(2024年12月現在)。

SOCIAL ROBOTICS株式会社
代表取締役 淺野滋氏

 配膳ロボットの開発に着手したのは、淺野氏が福島で偶然入ったラーメン店で、広い店内を店主が一人で切り盛りする様子を目にしたのがきっかけだ。当時福島では震災の影響で休業している飲食店が多かったこともあり、ラーメン店には多くの客が来店し、テーブルには食後の皿が積み重なっていた。この光景を見た淺野氏は、飲食店での活用に向けた配膳ロボットの開発に本格的に動き出すことを決めた。

 そこから始まった同社の配膳ロボットは、数々の実証実験を経て改良を重ねてきた。現在は大手チェーン店での導入を目指して、大手代理店と取扱いに向けた協議を進めている。配膳ロボットの飲食店導入においては、最先端技術を使うことよりも、いかに現場に適した実用的なロボットであるかが重要だと淺野氏は言う。

 多くのベンチャー企業と同様に、同社でも資金力や雇用などの課題を抱えており、開発や製造は、菊池製作所や外部エンジニアなどと連携して行なっている。また大手企業ほどに資金を投じて製品試験をすることができない現状を前に、納品先である店舗ごとの環境条件に適した技術レベルの選択や調整など、苦労も失敗も数多く繰り返してきた。実績が少ないうちは納品の直前まで、その時々に起こるエラーやバグに一つ一つ向き合って対処し、解決法を見出しながらデータを蓄積していった。特に直近1年間の蓄積は大きく、ようやく自信を持って納品できる状態まで達したという。

 同社が大事にしてきたのは、製品の先にいるユーザー視点でのロボットづくりだ。搭載する技術は、広く使われており信頼性が高く、かつ価格を抑えたものとすることにこだわった。特殊で高価なイメージがあるロボットだが、民間企業で営業経験を持つ淺野氏は、あくまでも日常的に使う機器であるという感覚を根底に持って開発してきた。一般の飲食店が手に届く価格に、というコスト意識は当初から強く持ち続けている。

 「BUDDY」は飲食店以外にも、工場や病院などでの活用を想定しており、いずれは事業化も視野に入れている。そうなれば、大規模な工場や病院、介護施設などが多く集まる多摩地域は、同社にとって潤沢なマーケットにもなり得る。貴重な国産ロボットを広めていくために、福島、そして多摩地域から飛躍を目指す。現在国内で活躍する配膳ロボットの多くは中国製で、近年技術力を高めている中国製の製品は、高品質・低価格のものも多い。淺野氏は、「当社のロボットを飲食店で普及させるのはもちろん、中国製ロボットがなかなか参入できていない病院や工場で新たな使い方を模索していきたい。ロボット大国と言われる日本に、国産ロボットを増やしていけるよう、しっかりと骨組みを作っていきたい」と話す。

優れた免震機能により崩れやすい料理や飲み物も運ぶことができる

『多摩けいざい』トップへ戻る