多摩けいざい
特集 多摩のうごきを知る
人材確保に挑む中小企業の取組み
2025年10月27日
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少子高齢化や労働力人口の減少が進む中、多くの企業が「人材不足」という課題に直面している。特に中小企業では、若手人材の確保や定着が難しく、採用後すぐに退職するケースも増加している。さらに、物価高や各コストの上昇が企業経営を圧迫し、採用コストを抑えながらも長期的に働ける仕組みを模索する必要性が高まっており、人材の確保や定着は喫緊の課題となっている。本特集では、こうした課題に対して独自の取組みを行い、成果を上げている企業3社を紹介する。
女性や若手が活躍する建設現場へ/巴山建設株式会社
まず始めに紹介する調布市の巴山建設株式会社は、1950年の創業以来、多摩地域を中心に橋梁工事や河川工事、造成工事などの土木建設関係の工事を数多く手掛けてきた。現在の社員数は65人だ。
トレードマークのパンダがプリントされたショベルカー
同社では、代表取締役社長の巴山一済さんが2021年に就任して以来、会社の将来を見据えてさまざまな改革を進めてきた。そのうちの1つが女性や若手など、一般的に建設業では確保が難しいと言われている人材の採用である。こうした取組みについて、中心となって進めてきた同社総務部主任・渡口美紗子さんと総務部・音田加奈さんから話を聞いた。
「社長は、人材確保に苦労していた就任当時の状況から先々を見据えて、『これからは女性にも建設業で活躍してほしい』と、女性の採用に注力し始め、同時に女性が働きやすいように社内の環境を整えてきました」と渡口さん。まずは内勤の事務職を増員し、次にCADオペレーター、そして施工管理業務へと段階的に女性の採用を行ってきた。特に、実際の建設現場などで働く施工管理業務は、男性であっても簡単には人が集まらないというが、現在同社では2人の女性社員が施工管理業務に就いている。これに伴い、現場には女性専用休憩室が設置され、女性向けヘルメットや日焼け止めの支給を行うなど、環境を整備。また、内勤の社員が各現場を回って女性の目線で勤務環境をチェックをする「現場パトロール」を行ったり、女性社員同士で意見交換や情報交換ができるコミュニケーションの機会を設けるなど、試行錯誤しながら働きやすい環境づくりを行っている。
総務部主任の渡口さん(左)と総務部の音田さん(右)
建設の現場に女性がいることはまだ珍しく、協力会社から驚かれることもあるというが、女性ならではの細やかな仕事ぶりが評価され、現場全体の雰囲気が明るくなるなど、好影響を与えている。同社ではこうした取組みが評価され、「令和6年度東京都女性活躍推進大賞」の特別賞を受賞した。
また、新卒採用を中心とした若手社員の採用にも積極的で、学生や求職者が現場を体験し、社員と直接交流できる「現場体験」を実施するなど、社員一丸となって人材の獲得に乗り出している。渡口さんは、「社内は和気あいあいとした雰囲気で、現場体験などの機会には社員も積極的に協力してくれています。また、人材定着のための取組みとして、若手のコミュニティ『ユース会』を立ち上げ、社内交流や意見交換を促進しています」と話す。同社の取組みは、女性や若手が活躍する建設業界の新たなモデルケースとして注目を集めている。