多摩けいざい

特集 多摩のうごきを知る

中小企業の成長を後押しする工場見学

2024年10月25日

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ものづくり企業が挑むブランディング/株式会社島田電機製作所


株式会社島田電機製作所
代表取締役社長 島田正孝氏

 八王子市の株式会社島田電機製作所は、エレベーターの押しボタンや到着灯などの電機製品をオーダーメイドで製造する企業だ。創業は1933年で、代表取締役社長の島田正孝しまだまさたか氏は同社の5代目である。2013年に島田氏が社長に就任してから始めた工場見学により、同社の知名度は一気に上がり、「1000のボタンを押し放題」の「日本一予約の取れない工場見学」として一躍有名となった。

 エレベーター部品を製造するものづくり企業として国内でのシェア率は6割を超えるなど、創業以来着実に業績を積み重ねてきた同社。社長に就任した島田氏は、この先どのような会社にしたいかを考え、組織づくりの一環としてブランディングに取り組むことにした。まずはインナーブランディングに取り掛かり、社内改革を進めた。会社のカルチャーブックの作成や、ゲーム性を取り入れた「働きたくなる30以上の仕組み・仕掛け」づくりなど、社員の士気を上げ、全員が自社の価値観を共有し、同じ方向を向いていけるような組織づくりを少しずつ進めていった。こうした取組みは人材採用にも好影響で、今では全国から同社で働きたいとの熱い気持ちを持った志望者が集まっている。

 そして次に、世の中に自社や自社の活動を認知してもらうにはどうすればいいのかを考えていた時、近隣住民の「子どもが好きなだけボタンを押せる場所があったら」との声を受け、工場見学を始めたという。「1000のボタン」は、せっかくならインパクトのあるもの、そしてオーダーメイドで一つ一つ違う製品を作っていることを知ってもらえれば、との思いから作られた。中には一般公募により集まったボタンのデザインも採用されている。

 当初は担当部署の社員のみが来訪者の案内をしていたが、外部に向けて自社のことを語り、製品への反応を直接受け取ることが、社員の誇りや仕事へのやりがいにつながると考え、部署の垣根を越えて全社から“アテンドメンバー”を集めることにした。最終的には社員の半分ほどがメンバーとなり、毎回交代で見学者に付いて回り、訪れる人を楽しませた。

大人気の「1000のボタン」には全て違うボタンが使われている

 こうした工夫が詰まった工場見学は評判を呼んで人気を集め、メディアにも多く取り上げられるようになった。次第に予約が殺到するようになり、受入体制を見直すと同時に、さらなるパワーアップを遂げることを決意。2024年7月、新たに社内の一角に、“押す”をテーマにした遊び空間「OSEBA」をオープンした。「OSEBA」では、ボタンを押すことによる遊び要素を増やすとともに、同社の技術や歴史に触れることのできる展示や、来場者が感想やアイデアを自由に書くことのできる場所も設置され、企業ミュージアムとしても楽しむことができる。入場時間枠を設けた上での自由見学としたことで、より多くの人が訪れることができるようになったという。

 島田氏は「こうしたブランディングは企業価値の向上につながる。企業価値が向上すれば、結果的に経営も上手く回っていく。大手企業だけではなく中小企業でも、経営者や社員が自社をどう見せたいかを考えて、発信していくことが必要ではないか」と話す。

エレベーターボタンの製造工程を、クイズを交えて紹介している

 実際に同社では、取引先との関係にもポジティブな変化が生まれている。例えば、大手企業のトップから話を聞きたいと連絡が来たり、新規の営業先がテレビ番組を見て同社の取組みを知っていたり、異業種の広報や企画担当から連絡があるなど、さまざまだ。それにより、同社の良いイメージが顧客の中で形成され、他社と差別化されることで、価格競争に巻き込まれずに済む、仕事の幅が広がる、多方から新しいアイデアや情報が集まるなど、影響は多岐に渡っているという。

 今後も世間の人々や取引先、そして社員にもさらに自社を知り、理解し、好きになってもらう、いわば“ファンづくり”を続けていくという同社。時代の変化に敏感に反応し、周囲から共感を得ることで、会社のさらなる進化を目指す。島田氏は、「そのためには、まずは経営者が常に変化し、成長を続けていく必要がある。経営者の成長が組織全体の成長につながっていく」と語る。

経営の可能性を広げる工場見学


 今回話を伺った2社では、工場見学を始めとしたさまざまな取組みにより、自社や自社の製品を広く世間に周知し、人々を惹きつけてきた。経営者の強い信念のもと、一貫した取組みが他社との違いを生み出し、企業の成長につながっている。工場見学など消費者との多様な接点を設けることで、新たな経営のヒントを得る企業が増えていけば、高い技術力を持つ多摩地域の中小企業が、更なる成長を遂げることができるのではないだろうか。(畑山若菜/編集:野村智子)

株式会社オギノパン(パン製造・販売)
神奈川県相模原市緑区長竹2841

株式会社島田電機製作所(エレベーター等の電子部品製造・販売)
東京都八王子市大和田町3-11-1

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