多摩けいざい

特集 多摩のうごきを知る

中小企業の成長を後押しする工場見学

2024年10月25日

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人気観光地となった工場と直売店/株式会社オギノパン


 「あげぱん」や「丹沢あんぱん」を看板商品に持つ株式会社オギノパンは、神奈川県相模原市に本社工場を構え、県内を中心に9店舗の販売店を運営している。1960年に創業した同社の3代目である代表取締役の荻野隆介おぎのりゅうすけ氏は、製造担当や直売店の店長、販売部長などを経験し、2021年に社長に就任した。2010年に現在の場所に移転した工場では毎日多くのパンが製造され、各店舗に運ばれていく。工場は大きな窓で囲まれており、午後5時頃までであれば外の通路から自由にパンの製造工程を見学できる。また、工場の一角は直売店となっており、種類豊富な焼きたてパンや、少量ずつ常に揚げたて提供の「あげぱん」を購入することができる。

工場見学や直売店での買い物が楽しめるオギノパンの本社工場

 創業以来、地域に密着したパン屋として学校給食を主力事業としていた同社。「あげぱん」は、給食で提供していたものをアレンジした商品であり、大人にとっては懐かしさを感じることも人気の理由の一つとなっている。また、学校給食を行っていた関係で、以前から小学校の社会科見学などで工場見学の依頼を受けることが多く、工場内に児童を招き入れて説明を行うなど、地域の子どもたちのために精力的に活動を行ってきた。

株式会社オギノパン
代表取締役 荻野隆介氏

 現在の場所へ工場を移転した当初は、これほど反響があるとは予想していなかったというが、オギノパン独自のさまざまな取組みの成果もあり、今では地域外からも人が訪れる観光地となっている。具体的には、製造工程が見られる見学通路のほか、豊富な品揃えで限定商品なども取り扱う直売店、子ども向けのパン教室の開催など、人が集まる仕掛けを数多く実施している。夏休み期間に開催したパン教室は盛況で、来年は日程を増やすことを検討している最中だ。また、市街地からは離れているものの、近隣には宮ヶ瀬ダムや、県立公園、牧場などがあり、訪れた人は周辺を回遊することもできる。徐々にテレビ番組などメディアへの露出も増え、さらなる集客や、催事・イベントへの出展、スーパーからの卸売の依頼へとつながるなど、好循環が生まれている。中には、大手企業のバイヤーが休日に訪れたのをきっかけに、商談に発展したこともあったという。

今年のGWは1日に5000個以上売れた名物の「あげぱん」

 工場見学と直売店の人気が上昇するにつれ、徐々に店舗数を増やしていった同社。売上比率においても小売の割合が多くなり、今ではおよそ7割を占めている。そこで昨年、学校給食のパン製造をやめ、小売メインの製造・販売へビジネスモデルの転換を図った。学校給食では大量生産が求められるうえ、大手企業も参入しており競争は厳しい。「ならば、大手企業では手が回らないような、付加価値の高いパンの製造をさらに追求していこうと決めた」と荻野氏。

 小売メインにしたことで、季節や来店客数、社内の人員などに合わせて製造数を増減するなど、状況に応じて製造体制を調整できるというメリットもあった。現在は製造数の増減は工場に裁量を持たせ、売上が伸びにくい夏の暑い時期には時間外労働を減らしたり、有給休暇を取りやすくしたりするなど、ワークライフバランスの向上にも努めている。

ガラス張りの通路から見えるコッペパンの製造工程

 新商品を生み出す仕組みも整っており、毎月5品は新商品を発売している同社。店長会で各店の店長と経営陣が集まって試食を行い、新商品を決めている。社員から次々とアイデアが挙がってくる風通しの良さも同社の強みだ。最近では“かわいさ”が持つ価値に注目し、味はもちろん、写真映えするような見た目の付加価値がある商品を続々と生み出している。

 2023年には八王子市内に新店舗をオープンした。八王子市では学校給食を提供していたため知名度があり評判が良く、今後も八王子市周辺への出店を視野に入れている。荻野氏は「常に新しいことを取り入れて、少しずつでも前の年より成長し続けていきたい。テーマパークのようにお客様の心の中に『楽しかった』 『また行きたい』という気持ちを残せる場所でありたい」と話す。

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