多摩けいざい

特集 多摩のうごきを知る

事業承継後の中小企業-新社長の奮闘記

2024年7月25日

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社員が主体的に働く会社へ/株式会社小海ネームプレート製作所


株式会社小海ネームプレート製作所 代表取締役 関千枝子氏

 最後に紹介するのは、武蔵村山市の株式会社小海ネームプレート製作所だ。アルマイト加工と呼ばれるアルミの表面処理を得意とする企業である。アルマイト加工の技術を持つ会社は貴重で、航空機や鉄道車両の部品、半導体関連など多種多様な分野から引き合いがあるという。

 代表取締役の関千枝子せきちえこ氏は、同社の社長になって3年目を迎えた。元々は父親が創業した会社に夫が後継者として入社して事業を軌道に乗せ、社員はおよそ100人まで増えるなど急成長を遂げた。自身は経理担当として勤めていたが、夫の病気療養により、急転直下で関氏の代表就任が決まったのであった。コロナ禍で多くの企業が難しい経営判断を求められた当時、大勢の社員を抱える会社の代表就任には迷いがあったという関氏。しかし社員たちからの後押しもあって心を決めた。

 就任後には、これまでのトップダウン型の経営からボトムアップ型へのシフトチェンジを目指した。急成長した企業規模を維持していくには、社員一人ひとりが会社をつくっていくという意識づけが必要だと感じたからだ。今までと同じことをやっているだけでは、会社は衰退していくと関氏は危機感を抱いている。今後は社員の意識改革とともに、設備投資をして時代に即した工場環境を整えていきたいと考えている。

 「今では現場をよく知る社員の意見を経営に反映させることもあり、私自身が社員の発想から学ぶことも多い」と関氏。こうした変化は社員のやりがいや会社の力にもつながっているという。

3m×3mの大型、5mの長尺物にも対応できる大型の設備も完備

 またコロナ禍で時間ができたことを機に、これまではなかなか取り組めていなかった社員の多能化にも着手した。製造業の中でも最終工程に位置する同社では、基本的に納期が非常に短いため、効率よく仕事を進める必要がある。多能化により社員一人ひとりの仕事の幅を広げることで、社内体制の強化に努めている。他にも、近隣の工業高校からインターンシップの受け入れを行うなど、地域とのつながりを持ち、会社の知名度向上や新たな人材獲得に向けた動きを推進している。

 現在では、若手社員を中心に、人から人へ受け継がれてきた技術をマニュアル化する試みが自発的に進んでいる。貴重なアルマイト加工技術を継承していくために、今後も歩み続ける同社。関氏は、「社員と社員の技術は当社の財産。私自身はまだまだ未熟だが、会社は社員全員でつくっていくものだと実感している。当社の技術で社会に貢献し続け、次の世代にバトンを渡していきたい」と話す。

会社を成長させる事業承継


 話を伺った各社の新社長は、それぞれのやり方で自社の強みや弱みに向き合いながら、新たな販路の開拓や、技術の継承に取り組んでいた。そこには、多くの困難や苦労を伴いながらも、先代までの経営者が築いてきた事業を継続し発展させていくために、前に進み続けている姿があった。

 事業承継は企業にとって非常に重大な出来事であるが、同時に一つの通過点でもある。多くの会社が経験するこの通過点を会社を大きく飛躍させる分岐点とするためには、円滑な事業承継とともに、承継後の新社長の気付きから始まるさまざまな改革への取組みも重要な要素となるのではないだろうか。(畑山若菜/編集:野村智子)

株式会社青梅インターフローラ(花き卸売)
青梅市今井5-2440-32

多摩岡産業株式会社(プラスチック加工品製造)
府中市住吉町3-56-8

株式会社小海ネームプレート製作所(アルマイト加工処理)
武蔵村山市伊奈平1-39-1

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