多摩けいざい
特集 多摩のうごきを知る
飲食業の将来を見据えた取組み
2023年10月25日
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飲食業界の新たなモデルケースに/株式会社MOTHERS
最後は、株式会社MOTHERSの取組みを紹介する。同社は立川や吉祥寺、調布など多摩地域でイタリアンレストラン「MOTHERS」をはじめ、ピッツェリア「CANTERA」やスペイン料理を提供する「PEP」など人気店を数多く展開する。ほかにも新宿などの都心エリア、そして京都や広島など地方への出店を含め、20店舗以上を経営している。飲食業界が長年抱えてきた課題について、代表取締役の保村良豪氏から話を聞いた。
現在のところ、飲食店の現場社員の給与水準は他業種と比べて低い傾向にある。そのため、飲食業界を志す人が減っているのではないかと保村氏は感じている。また、ヒエラルキー的な業界の構造や社員の体力的な問題により、ある程度の年齢になった現場社員は行き場がなくなってしまうことも多く、転職を迫られることになるという。これらを踏まえた上で同社では、飲食業の地位向上、そして長期雇用の確立の二つを目指すこととした。
同社の転機となったのは、数年前から始めたホテルへの出店だ。新たに開業するホテル内にあるレストランを丸ごとプロデュースし、店舗運営も同社が行う形である。現在、西新宿・京都・広島の各ホテルで展開しており、次の出店地も決まっているという。ホテルに出店するメリットの一つは、出店費用をホテルの運営会社が負担するため、初期投資が掛からないことだ。もちろんホテル側にとっても良い面はある。宿泊者に加えて飲食店が目当ての人を多く呼び込めれば、その分ホテルの魅力が高まるからだ。
保村氏は飲食店のホテルへの出店を、飲食業界の新たなモデルケースとして広めていきたいという。加えて同社では、この初期投資で浮いた分を人件費に回し、社員に還元している。さらに社内の人事制度を改革したことにより、能力ややる気次第で高い年収を目指すことも可能となった。
将来的にはホテル自体の経営も視野に入れている同社。実現すれば、ホテルのフロント業務や客室清掃を含むバックヤード業務など、飲食店にはない職種にまで雇用の場が広がっていく。それにより、行き場がなくなった現場社員の働き口を確保できるとともに、希望や適性に応じた多様な働き方も可能となる。
経営する店舗以外にも、全国各地で飲食店をプロデュースしてきた保村氏。最近では、地方の廃校をリノベーションしてレストランを中心とした建物にするなど、飲食業の原点である“食”を通じた地方創生やまちづくりにも力を入れている。人口減少や高齢化が進む自治体では飲食店の誘致に苦労することも多く、中には同社にたどり着くまで何社も断られてきたような場所も多いという。「地方経済が衰退する中で、地元の畜産業者の新たな販路として、また賑わいを創出する場として飲食店が必要とされていることを実感している。さまざまな業種の方と一緒にやっていきたい」と保村氏。
今後は飲食業ならではのセカンドキャリアとして、畜産業界の担い手になる道を作ることも視野に入れている。同社のレストランで使う食材の生産者になることで、現場を離れてからも雇用体制を継続できるからだ。こうした取組みが反響を呼び、同社の理念や働き方に共感した人材が多く集まっているほか、アルバイトから社員を目指す人も増えている。
飲食店の経営に留まらず、地方創生や従業員のセカンドキャリアの形成など、飲食業が持つ可能性を広げ続けている同社。保村氏は、「美味しい食事や良いサービスを提供する店は人を集め、地域に新たな賑わいをもたらすことができる。これからも“食”の力で世の中に新たな価値を創出し続けるとともに、より美味しいものを届けていきたい」と語った。
飲食業のこれから
デジタル社会が発展し、時代とともに飲食店の在り方に変化が起きたことで、店を経営する上での選択肢が多様化している昨今。今回取り上げた各社でも、自社の強みを活かした三者三様の方法を垣間見ることができた。多摩地域にも数多くの飲食店があり、私たちの暮らしを支えてくれている。厳しい外部環境が続く中でこの先も事業を継続していくために、さまざまな選択肢を駆使して時代に沿った方法を模索し続けることが、自社の持ち味を最大限に活かした店舗づくりにつながるだろう。(畑山若菜/編集:野村智子)