多摩けいざい
特集 多摩のうごきを知る
多摩地域におけるふるさと納税の動向
2023年1月25日
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自治体の個性が光る返礼品
自治体からの返礼品は、納税者にとって大きな魅力である。ふるさと納税の市場がここまで拡大した要因の一つに返礼品の充実があることは言うまでもなく、ふるさと納税制度の中で大きな役割を果たしてきた。一方で、過熱する返礼品競争に対しては、2019年の法改正で、返礼品の返礼割合を寄附額の3割以下とすることや返礼品は地場産品とすることなどが定められている。
多摩地域の各自治体においても、豊かな地域資源を活かした返礼品の数々が用意されている。現在、多摩地域内でふるさと納税の返礼品を用意しているのは、福生市を除く29市町村である。そのうち寄附受入金額が最も多い府中市では、サントリー社のビール各種が代表的な返礼品だ。次いで多い町田市では、オーディオテクニカ社のイヤホンがふるさと納税ポータルサイト内のランキング上位の常連となっており、全国的に名の知れた大企業の製品は返礼品として安定した人気を博していることが窺える。
また、ここ数年で返礼品の取扱いを始めた自治体も複数あり、中でも調布市は2022年12月から開始したばかりだ。導入に至った経緯について、同市行政経営部企画経営課の長井彰吾氏は、「当市では、様々な要因で影響を受ける地域経済の活性化を促すことも目的の一つとする中で返礼品の取扱いを始めました」と話す。返礼品は、近隣の住民や通勤・通学などで同市に馴染みのある人に向け、飲食店のチケットなど市内に人を呼び込むものも用意したという。今後も反応を見ながら徐々に品数を増やす予定だ。
各自治体の返礼品の中には、調布市と同様に実際にその場所を訪れて体験できるものも多い。例えば、小金井市の「野菜の収穫体験引換券」は、市内の農園で新鮮な野菜の収穫を年間を通して楽しむことができ、家族連れに好評だ。ふるさと納税は、自分の住む自治体に寄附しても返礼品をもらうことができないため、体験系の返礼品は近隣住民がターゲットになっている。ほかにも、寄附先の自治体に住む家族などへの訪問や家事代行、お墓の清掃代行など、生活に根ざした実用的なサービスも多い。
調布市の長井氏は、「まずは、市内事業者の支援と市の魅力発信を積極的に行い、調布市をPRしていきたい。いずれは返礼品ありきではない、当市への応援のお気持ちによる寄附につながれば嬉しいです」と力を込める。拡大し続けるふるさと納税の市場に対応するために、各自治体では柔軟な発想による新たなアイデアの捻出が求められる。
表2 多摩地域の地域資源を活かした個性的な返礼品の一例
(備考)各自治体が2022年12月現在、返礼品として自治体のホームページや各ふるさと納税ポータルサイト内で公表しているものを、当研究所が独自に選び掲載ふるさと納税制度のこれから
日本各地に魅力的な返礼品が次々と登場し、ふるさと納税を行う人が増加した結果、都市部から地方へお金の流れが発生した。それによって潤っている自治体がある一方で、税収の減収に頭を悩ます自治体が出ていることも事実だ。現状の制度が続く以上、ふるさと納税による自治体間での税収の差は広がるばかりだろう。
ふるさと納税による減収が目立つ多摩地域の自治体では、寄附先として選ばれるために試行錯誤を続けている。ふるさと納税は、納税者が寄附先を自ら選択できることに大きな意味があり、思い入れのある地域や応援したい地域に税制を通じて力になることができる制度である。今後は、返礼品から寄附先を選ぶ楽しさに加え、多摩地域内で応援したい地域や馴染みある近隣自治体への気持ちのこもった寄附が増えていくことを期待したい。それが、多摩地域のさらなる発展につながっていくはずだ。(畑山若菜/編集:野村智子)