多摩けいざい
特集 多摩のうごきを知る
ソーシャルビジネスでつなぐ福祉と社会
2022年1月25日
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ウェルフェアトレードの普及に向けて
ウェルフェアトレードとは、福祉(ウェルフェア)のフェアトレードを意味する造語であり、福祉施設で作られた商品を正当に評価し、適正な価格や方法で流通させることを目指す取組みである。ウェルフェアトレードの実現によって、障害がある人の収入ややりがいの向上につながるとともに、社会の理解も促していくことができる。藤本氏は、大多数の人にとって障害者と関わる機会が極めて少ないということに課題を感じている。「多くの人は作業所で働く障害者の存在を知る機会がなく、興味を持つきっかけがありません。もっと気軽に接点を持てるように、関わり方の間口を広げることが大事だと思っています」と藤本氏。そのような問題意識から、ウェルフェアトレードの普及活動により力を入れるため、2020年、株式会社とは別に新たに一般社団法人を設立した。
ウェルフェアトレードをさらに広げていくためには、企業や学校への研修など受け手となる社会側への啓蒙活動と同時に、福祉側に対する意識変革も必要不可欠である。マジェルカでは、福祉施設に対して同社が持つノウハウの提供や研修を実施するなど、精力的な活動を行っている。
10年の活動を通し、ウェルフェアトレードは社会に認知され受け入れられるようになってきたが、一方で藤本氏は、自身の活動を特別視しないことを意識している。「障害者を理解してもらおうという取組みが特別なことに見えてしまうと関わりにくくなってしまう。その敷居をどんどん下げていきたいです。日頃福祉に関わりがない一般の人たちにどれだけ届けられるかを考えています」と話す。
株式会社シンクハピネス ―医療現場で感じた違和感を形に
府中市にある株式会社シンクハピネスは、京王線の多磨霊園駅近くに事業所を構え、主に3つの事業を展開している。訪問看護やリハビリを行う看護・リハビリテーション事業、介護保険制度に基づいてケアマネジャーによる相談援助などを行うケアマネジメント事業、そしてカフェの運営を中心としたコミュニティ事業である。代表取締役の糟谷明範氏は、理学療法士として病院や訪問看護ステーションに勤務した後、2014年に同社を立ち上げた。糟谷氏が起業を決意した背景には、医療の現場で働いている時に抱いた違和感があった。
まず、医療を提供する医師や看護師、理学療法士など医療従事者と患者の関係性についてである。病院の中では、治療やリハビリなどをする際、医療従事者が患者に対して上から物を言ってしまうことが少なからずあった。もちろん、医療のプロとしてはっきりと患者に伝えなければならない場面もある。しかし、医療従事者も患者も互いに一人の人間であり、本来は対等な関係のはずである。このような経験を通して、糟谷氏の中に人と人として向き合う感覚を大切にした医療を実現したいという思いが芽生えた。
もう1つの違和感は、訪問看護の在り方に関するものだった。訪問看護事業では、1日の訪問件数が重視されることが多く、人材が定着しづらいことや、看護師の中で訪問看護に従事する割合が低いことなどの課題を抱えている。2017年の厚生労働省の調査によると、全看護師の中で訪問看護師として働く人の割合はわずか3.7%である。糟谷氏も、自身が訪問看護事業に携わる中で、従業員のキャリア形成や働きやすい職場環境の整備などが後回しにされる傾向があることに違和感を感じ、より良い訪問看護の在り方について考えるようになった。