多摩けいざい

特集 多摩のうごきを知る

持続可能な地域づくりに向けた檜原村の挑戦

2021年10月25日

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 多摩地域唯一の村である檜原村で、地域を盛り上げる動きが活発化している。2021年現在、村の人口のおよそ半数が高齢者となっており、少子高齢化の流れはますます加速している。そうした現状を打破すべく、豊かな地域資源を活用することで産業を発展させ、地域全体を元気にしようと取り組む事業者の姿を追った。

※今回取材させていただいた方々の個別のインタビュー内容は、以下よりご覧ください。

檜原村の現状


 東京の西側で山梨県と接する檜原村は、森林率93%と村の大部分が森林に覆われており、平坦地は少ない。村を流れる南秋川と北秋川沿いに集落が点在する、豊かな自然に囲まれた村である。村の人口は2,083人(2021年9月1日現在)で、戦後すぐのピーク時と比べると1/3以下となっており、人口が大きく減少している。一方、世帯数にはそれほど大きな変化がみられない。少子化が進んだことや、働く場所が少ないために若者が村を出ていった結果、世帯数は大きく変わらずに人口だけが減少している。

 そのような状況を改善するため、村では以前から地域おこし協力隊による活動や、移住・定住を促進する事業を行うなど、地域に若い世代を呼び込む取組みに力を入れている。若い世代を増やすには、雇用の創出が必要不可欠であるという認識の下、村では「地域固有の資源を活かして仕事を創り出す村づくり」を基本目標のひとつとして掲げ、目標の実現に向けて邁進している。その具体策が「檜原村トイ・ビレッジ構想」と「檜原村じゃがいも焼酎等製造事業基本計画」である。

新たな観光拠点となる「檜原 森のおもちゃ美術館」の誕生


館長 大谷氏

 豊かな地域資源を活用した木材・木育産業の発展を目指して2014年に策定された「檜原村トイ・ビレッジ構想」。この構想の支柱となるのが、2021年11月3日にオープンする「檜原 森のおもちゃ美術館」である。新宿区にある「東京おもちゃ美術館」の姉妹館として旧北檜原小学校の跡地に建設された同美術館は、国産の木のおもちゃや世界の優れたおもちゃを多数揃え、子どもから大人まで多世代が楽しめる体験型ミュージアムである。オープン後は、村の新たな観光拠点および地域交流や多世代交流の拠点となり、村全体の産業活性化を牽引していく。

 同美術館を運営するのは、村の指定管理者であるNPO法人東京さとやま木香會もっこうかいである。同法人の理事であり、美術館館長を務める大谷貴志おおたにたかし氏は、旧北檜原小学校の卒業生だ。村が運営委託先を探していることを知った大谷氏は、生まれ育った地域に貢献したいと前職の東京都庁を退職し、卒業生の仲間と東京さとやま木香會を立ち上げた。「安定した仕事を辞めてまでこの事業に専念することに対して、周囲からは何を考えているのかと言われましたが、地域への想いと妻の後押しが支えとなりました」と大谷氏は言う。

 建物や内装、そして館内のおもちゃまで檜原産材が豊富に使われたこの施設では、遊びを通じて自然と木に親しみを持つことができる。木工体験ができる「木工室」や、3歳未満の乳幼児のための「赤ちゃん木育ひろば」など、様々な展示室は用途や雰囲気によって使用する木材を変えており、細部までこだわりが見られる。館内では、地元や近隣地域の人々を中心としたおもちゃ学芸員と呼ばれるボランティアが運営のサポートを行う。

 大谷氏によれば、オープン前から団体客の予約が相次いでいるという。学校をはじめとした教育関係団体のほか、檜原村と同様の課題を抱える山間部の自治体から視察の申し入れがあるなど、各所から注目を集めている。年間4万人の集客を目標にしている同施設であるが、大谷氏は「来館者には、おもちゃ美術館以外にも色々な場所を訪れて檜原村を楽しんでもらい、地域全体が潤ってほしいと思っています。村の林業が再び活発化し、木をきっかけに経済が回っていく、それが檜原村トイ・ビレッジ構想の全体像です」と力を込める。村で生まれ育ち、現在も村に暮らす大谷氏の願いも乗せて、ついに檜原村トイ・ビレッジ構想はその実現への大きな一歩を踏み出す。

木の温もりを感じることができる館内の様子。(オープン前の9月に撮影)

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