多摩けいざい
特集 多摩のうごきを知る
中小企業とテレワーク
2021年4月26日
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株式会社ケイアイ
ケイアイは八王子市にある1936年創業の老舗車いすメーカーである。オーダーメイド車いすの設計、製造、販売や、車いすのレンタル等を手掛けており、国内で初めて車いすを作った歴史を持っている。社員数は31人で、そのうち17人が営業社員である。
首都圏で高いシェアを誇り同社の主力となっているオーダーメイド車いすは、障害を持つ方が医師等の診断の下に国や自治体から補助を受け購入する場合が多く、採寸や調整のために顧客一人ひとりの元へ営業社員が直接訪問する必要がある。一方でその市場は小さく、売上を増加させるためには必然的に営業エリアを広げる必要があった。同社では、売上増加と移動コスト増加の間でジレンマを抱えており、利益が出づらい構造となっていた。
そこで同社社長の北島伸高氏は、業務を効率化するために2017年にテレワークの導入を決意した。後押しとなったのは、東京しごと財団による助成金の存在である。助成金を活用し、営業社員全員にモバイルパソコンやモバイルプリンター、iPadなどを導入し、リモートで社内サーバーにアクセスできるシステムを構築した。これによって社外での事務作業が可能となり、顧客へのスピーディーな提案ができるようになった。また、状況に応じてモバイルワークと在宅勤務を使い分け、併せて直行直帰を行うことにより、効率的な働き方が実現された。
テレワーク導入の結果、営業エリアが拡大し顧客との接点が増えたことによって、導入前よりも売上は約1.5倍に増加した。また、スピード感のある対応が可能となり、顧客の満足度が向上したことも売上の増加に繋がっている。さらに、業務が効率化されたことで退勤時間が早くなり、また休日出勤日数も減少するなど社員の労働環境が大きく改善された。
同社の取組みは、同業他社と比べて大幅に進んでおり、業界内でも話題になっているという。テレワークを導入してからその労働環境の良さを聞きつけて入社を希望する人が増えている。北島社長は、「転職しても同業種で働く意思のある人は、この仕事にやりがいを感じており貴重な存在です。その人材を獲得できることは、会社にとって大きなプラスとなっています」と言う。会社の良い評判が広まることは、他の社員にとっても自社の労働環境の良さを再認識するきっかけとなり、会社への満足度を高めることにも繋がっている。
テレワークを採り入れた働き方が盛んな同社だが、意外にも北島社長は「私はシステム関係に疎いので、ついていくのに必死です」と口にする。実は、iPadの導入に対しても、その効果について当初は北島社長自身が半信半疑だったという。しかし、テレワークを導入してから3年が経った今では、その効果を実感している。同社では、出勤管理やスケジュール管理などについても様々なアプリを活用している。新しいアプリなどを導入する際は、必ず最初に若手の社員数名に試してもらい、使いやすさや有効性を検討する。使用しているアプリの中には有料のものもあるが、社員何人かに試しに使ってもらったら非常に便利だったため、導入を決めた。
北島社長が考える中小企業におけるテレワーク導入のポイントは二つある。一つ目は、経営者がiPadやアプリなどの新しい情報機器やシステムの導入における費用対効果を見出すことができるかである。同社では、助成金の活用によって導入費用を下げることで、試しに使ってみようという意識が生まれた。そして二つ目は、対面のコミュニケーションに代わるものをどう構築していくのかである。現在同社では、社員同士が2週間顔を合わせないことも当たり前になっている。そのような状況の中で、社員間のコミュニケーションの仕方についてお互いが納得できる着地点を見つけることが必要であるという。例えば同社には、在宅勤務をした社員は翌日までに日報を提出するルールがある。これは業務上在宅勤務ができない内勤者への配慮の一つで、管理よりもコミュニケーションのために導入している。他にも、営業社員と内勤者が互いの業務を理解し、気持ち良く仕事ができるように、北島社長自らが社員一人ひとりの状況に気を配っている。
北島社長は、「テレワークの導入は、会社の発展のために必然のことでした。導入にあたって様々なハードルはありますが、一度始めてしまうと結構いいですよ」と話す。
株式会社ケイアイ
代表取締役: 北島 伸高
本社所在地: 東京都八王子市小門町85-2
業種: 車いすの設計・製造・販売
可能性を秘めるテレワーク
今回インタビューを行った二社では、当初は効率的に仕事を進めるための手段としてテレワークを導入した。だが、やがて働き方が変化したことによって会社の利益が増加し、さらには人材の採用にまで影響するという好循環が生まれている。
会社の発展や職場環境の改善を考えた時に、業務の効率化は真っ先に挙がる要素であり、テレワークの導入もその延長線上にあるのかもしれない。しかし、テレワークを業務効率化の一手段としてのみ捉えるべきではないように思える。二社のインタビューからも分かるように、中小企業にとってテレワークは、会社を大きく飛躍させる手段として活用できる可能性を秘めている。テレワークの導入には幾つかハードルはあるが、目的を明確にし、会社が一体となって新しい働き方に取り組むことで、その効果を最大限に引き出すことができるだろう。
現在、新型コロナウイルスの流行によって我々の生活は様々な変化に直面している。これをきっかけとしてテレワークを導入することにより、会社を成長させることができるのではないだろうか。(畑山若菜)