多摩けいざい

特集 多摩のうごきを知る

危機に立ち向かう多摩地域の中小企業

2020年7月27日

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揺るぎないビジネスモデル


 次に、頑健なビジネスモデルを構築し、危機時のショックの緩和が図れた企業の事例を紹介する。

 八王子市で法人向けにコインランドリーの販売・リースを国内唯一行っているファミリーレンタリースは、ホテルや大手企業の独身寮、インターネットカフェなど多種多様な業界と取引している。そのため、コロナ禍でホテルからの売上は減少したが、他の販売先が堅調なため、全体的な売上は順調に推移しているという。安定した経営基盤を有している同社であるが、7月に日本初のコインランドリー修理専門のサービス会社を設立するなど、更なる事業の多角化を進める。同社の鈴木社長は、「この事業は4年前より準備を進めてきた。機械を販売するだけでは、業績は安定しない。コロナ禍でも新たな事業を開始できるのも、コインランドリーからの安定したコイン収入やリース収入があるからだ」と自社のビジネスモデルを語る。

ファミリーレンタリース 代表取締役 鈴木氏

◆   ◆   ◆

 多摩市でIT技術を活用したインサイドセールスのクラウドサービスなどを開発・販売しているアースリンクは、リーマン・ショックを契機に事業を多角化した企業である。創業以来、同社は大手企業向けのシステム開発業務とシステムエンジニアの派遣業務(SES)の2つの事業を行っていた。その後、リーマン・ショック時に大きな打撃を受けた同社は、次の経済危機が起きても会社が耐えられるように新たな収益の柱を育てるため、インサイドセールス事業を開始した。一社あたりの取引額が大きい大手企業の受託事業と、取引額は少ないが業界問わず数多くのお客さまと取引をするインサイドセールス事業を行うことで、危機に強い事業ポートフォリオを構築したのである。そのため、今回の経済危機でも、同社の業績は順調に推移しているという。更に先を見据える同社の宮下社長は、「コロナ禍で、非対面型の営業に企業の興味関心は高まっている。しかし、中小企業にはITのスキルを持った人材が不足している。そこで、当社がITを活用した非対面型の営業を一気通貫で行うサービスを展開できれば」と、すでに新たな事業を計画中である。

アースリンク 代表取締役 宮下氏

ポストコロナ時代に向けて


 ここまで具体的な取組事例を、コロナ禍での「スピード」と「ビジネスモデル」という2つのキーワードとともに紹介した。冒頭で述べたとおり、2つのキーワードが相乗効果を生み出すことによって、新たな付加価値を生み出し続ける経営を実現している。

 今回紹介しきれなかったが、経営者の「言葉の力」も各社の取組みに影響を与えたと考える。先が見えない不安を誰もが抱える中で、経営者はいち早くコロナ禍の環境変化に対応した経営計画に見直しを行い、それを自らの言葉で社員に伝え、不安を取り除いていた。感染予防対策を含めて、経営者の強いリーダーシップの発揮により、社員が安心して働ける環境を作れたからこそ、各企業の前向きな取組みにつながったのではないだろうか。

 アースリンクの宮下社長は、「ポストコロナ時代の到来で、ニューノーマル(新常態)になるということは、どの企業にもチャンスが生まれてくるということ。1997年に私が起業してから、ITバブル崩壊やリーマン・ショックなどの経済危機は3~4回起きた。経済危機は滅多に起きないのではなく、よく起きることである。そして、必ず経済は回復した。もちろん、今をどう乗り切るかも重要であるが、経営者として経済が落ち込んだ今をチャンスと捉え、何を仕込むかが重要である。この状況に悲観的にならず、今がチャンスと考え、共に頑張りましょう」と、中小企業経営者にメッセージを送る。

 新型コロナウイルスの影響が直撃した中小企業。しかし、多くの経営者がこの状況を前向きに捉え、次の事業展開へ動き出している。ポストコロナといわれる時代の転換期を迎えているからこそ、経営者の判断でスピーディーに事業を展開できる中小企業の底力が発揮される時である。(西郷 誠)

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