多摩けいざい
特集 多摩のうごきを知る
危機に立ち向かう多摩地域の中小企業
経営者インタビューNo.05
株式会社ふぃっしゅいんてりあ
2020年7月27日
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首都圏の飲食店を中心に活魚や鮮魚の卸売業を営む同社。自社で畜養水槽を持ち、鮮度の良い魚を提供することにより、飲食店から幅広い支持を集めている。同社の林社長に、コロナ禍での業況や今後の事業展開についてお話を伺った。
代表取締役社長 林 剛生氏貴社の概要について教えてください。
当社は、錦鯉の卸売業を前身とし、そのノウハウを活かして1974年に活魚卸問屋として現在の事業をスタートさせました。活魚・鮮魚の卸売業をメイン業務に、飲食店への水槽設備の設置業務、陸上養殖のプラント設営なども行っています。
取扱商品は、養殖魚が中心です。これは、飲食店がメニュー欠品のリスクを軽減させるために、仕入れが安定している養殖魚を好むからです。天然魚の取扱いもしていますが、天候に左右されやすいため、仕入れと販売のタイミングが合わないことが多く、取扱いが非常に難しいです。
当社の強みは、長年の取引で築き上げた仕入先と販売先のネットワークがあることです。仕入で特に重要となるのが、お客さまから注文を受けた商品をいかに取り揃えられるかです。そのため、当社の仕入れ先は、市場ルート、各産地から購入する浜ルート、買い付け業者から直接輸送するルートなど多岐に渡ります。また、当社では畜養水槽を保有しているため、生きた魚(活魚)を仕入れることができます。活魚を仕入れて生きた状態で保有できる企業は、当社を含めて関東に2社しかありません。畜養水槽を保有することは、かなりのコストがかかるので、多くの企業が撤退していきました。販売先については、現在、東京・神奈川・千葉を中心に大手居酒屋チェーンを含め約800社の居酒屋やレストランと取引ネットワークを構築しています。
昨年からは、更なる販路開拓として、ベトナムへの活〆した鮮魚等の輸出を始めています。輸出候補先の国は、成田から日本と同じ鮮度で空輸できる圏内で、日本に対するイメージや、人口の年齢構成といった条件により選定しました。それらの条件を満たす国の中で、最長距離の国がベトナムでした。そこで成功すれば、それより距離が近い他の国でもできるという見立てです。ベトナムへは、5年前に現地調査を行い、一昨年から準備を開始し、昨年から実際に輸出しています。現地の主な販売先は、ベトナム人が経営する和食レストランです。基本的には、日本と同じ仕組みで鮮魚を卸しています。以前は、かつ丼やうどんなどのメニューしか提供できなかった現地の和食レストランが、当社のベトナム進出によって、今では刺身・寿司なども提供できるようになりました。
4~5月の業況はいかがでしょうか。
居酒屋やレストランなどの飲食店への4月の販売は、前年同月比で8割以上減少しています。6月に入り、回復してきたとは言え、まだ売上は5割ほどです。
経済の回復は、日本国内よりベトナムの方が早いです。肌感覚ですが、ベトナムはコロナ前と比べて現状90%くらいは回復していると思います。ベトナム経済は動き始めましたが、コロナ禍でサプライチェーンが混乱しており、現地のバイヤーは安定供給できるルートを探している状態です。そのため、当社にも冷凍魚を輸出してほしいという依頼が来ています。冷凍魚の輸出については、当社で今まで行ったことがない業務であり、さらに現地で直接交渉もできないので、かなりリスクはあります。しかし、コロナ禍の非常時でもありますし、リスクがないところには利益もありませんので、最大限にリスクヘッジして対応しています。
今後、どのように事業を展開していく予定でしょうか。
当社では、ポストコロナ時代の飲食業や卸売業の変化を見据えて、すでに3つの取組みを進めています。
1つ目は、新型コロナウイルスの影響が直撃した飲食店に新たな付加価値を提供する取組みです。これから営業を再開する飲食店では、自粛期間中にアルバイトなどが離職したため、人手不足が起きると予想しています。そのため、少人数でも飲食店を運営できる仕組みが必要と思い、人手と時間がかかる魚の仕込み業務を効率化することを考えました。そこで、自社工場で加工した鮮魚を飲食店に配送できるように工場の増設を進めています。
2つ目は、新たな販路を開拓する取組みです。ポストコロナ時代でも、美味しい魚を食べたいという需要はなくならないと思っています。そこで、鮮魚の仕入状況などの情報発信ができるアプリを開発し、そのアプリをECサイトにつなげて販売する仕組みの開発を進めています。これができれば、飲食店に情報を一括して発信できるだけでなく、BtoCの販路拡大にもつながると考えています。
3つ目は、自社で魚の養殖をする取組みです。新型コロナウイルスの影響により、国内のサプライチェーンが混乱しているため、自社で魚の養殖を行い、飲食店に直接配送しようと考えています。実際に、三重県に養殖場の建設を計画していますが、養殖場が完成しても魚を出荷できるまでに1年間はかかります。これが一番時間を要する取組みとなるので、着実に実現していきます。
お話しした取組みの他にも、当社では手の空いた配送スタッフも含めて6チームの体制を組み、国の補助金などを徹底的に調べながら、次のビジネスを検討しています。
最後に、ポストコロナ時代に向けて、一言お願いします。
今は目先の仕事が減り、暗くなりがちではありますが、先ほどお伝えしたように社員に新たなミッションを与えているため、かえって今の方が忙しいというくらい、社員には前向きに仕事をしてもらっています。
飲食店への販売が激減し、厳しい経営状況にはありますが、この状況で立ち止まっていることが危機だと思っています。今を第二創業期と考えて、ビジネスモデルをチェンジしながら進めていきます。会社を変えるチャンスですね。
(インタビュー日時: 2020年6月9日)
株式会社ふぃっしゅいんてりあ
代表取締役社長: 林 剛生
本社所在地: 東京都東村山市青葉町1-10-15
業種: 活魚、鮮魚の卸売業