多摩けいざい

特集 多摩のうごきを知る

多摩地域における民泊の動向

2018年10月25日

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多摩地域を訪れる多様な宿泊者


八王子市で民泊を行う中桐氏

日野市で民泊を行う壷井氏

 では、多摩地域にどのような民泊のニーズがあるのでしょうか。今回、多摩地域の民泊の実態を明らかにするため、実際に民泊を実施している5人の事業者の方にインタビューを実施しました。(なお、詳細なインタビュー内容は、当研究所ホームページに掲載していますので、ご覧ください。)

 「実際にこれほど多くのお客さんが来るとは思っていなかった」と話すのは、八王子市の自宅で家主不在型民泊を行う中桐氏。「ゲストの半分くらいは観光目的ですが、もう半分は違うニーズがある。例えば、息子が日本の大学に留学していて会いに来たとか、親戚や友人に会いに来たとか。日本人のゲストの方だと、会議や懇親会を開催したいという理由で宿泊するケースも増えている」と言います。中桐氏の場合、稼働率が7割ほどとなっており、当初の予想を超えて宿泊者が来ているようです。

 また、日野市で家主居住型の民泊を行う壷井氏は、現在多くの宿泊希望の問い合わせを受けていますが、そのうち実際に受け入れている宿泊者は、問い合わせ全体の13%ほどに留まると言います。「私たちは、ゲストと交流する以外にこれといったサービスは何もしません。本当にただ部屋を貸しているだけです。でも、始めから『私たちにはこれしかありません』と言っておけば、それでも良いという方が来ます」と、壷井氏は話します。

 今回インタビューを実施した事業者の方からは、欧米の方を中心に、多くの宿泊客が多摩から都心までを「近い」と認識しているという声もよく聞かれました。東京都産業労働局観光部の佐藤課長は、「海外の方は、エリアの違いをあまり考慮していない。それよりも個々の事業者の魅力で引っ張られているという印象があり、きちんとおもてなしをしてくれる方に宿泊者が集まっている」と話します。

これからさらに広がりを見せる民泊


東京都産業労働局 佐藤担当課長

 民泊事業者が口を揃えて言うのは、「ゲストとの交流が楽しい」ということです。民泊に取り組む誘因としては、もちろん収益もありますが、それ以上に民泊でしかできないゲストとの交流に対して価値を感じている方が多いようにインタビューを通して感じます。特に、家主居住型の場合にその傾向は顕著です。

 冒頭で述べたとおり、民泊は同時に多くの社会課題の解決に貢献できる可能性を秘めていますが、その一方で、住宅地に外国人が増え、住民の生活が脅かされるのではないかという不安もあります。そのような中で、八王子市は多摩地域で唯一独自の条例を制定し、住民の生活を守るために民泊事業者に適切な事業運営を行うよう義務を課しています。

 東京都の佐藤課長は、「闇雲に民泊を増やしていくでのはなく、信頼できる質の高い民泊を増やしていきたい。既に届出をされている事業者の方は、健全な民泊を広めていくためのパートナー」と力を込めます。

 2019年のラグビーワールドカップや、2020年の東京オリンピック・パラリンピックなどの国際的なイベントが控える中、国の政策的な視点からも、地域の社会的な背景からも、今後ますます広がっていくと思われる民泊。まだ合法化してから間もない新たなビジネスには、確かに課題はあるかもしれませんが、地域全体を巻き込んで成長していく可能性を感じます。(中西英一郎)

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