多摩けいざい
お客さま景気動向インタビュー
たなべ物産株式会社
代表取締役社長 田辺裕康氏
2018年4月25日
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地元八王子で盛んであった繊維産業の糸商として昭和8年に創業した同社は、時代の変遷とともに、不動産事業と建設資材の販売にシフトし、現在に至る。業態転換を経ても、一貫して「地域に根差す」ことをテーマとして掲げ、地元の信頼を得ている。様々な事業を通じて、地域の魅力を発掘し、活用するという視点を持ち、地元密着型の企業を目指している。
業態転換の経緯
戦後の社会変化に伴い、繊維産業全体が衰退していく中で、業態転換し、不動産事業に進出した。当時の八王子はベッドタウン化が進んでおり、糸商時代に取引していた機屋(はたや)の工場や土地は、貸工場や住宅に向いていたため、その転廃業に伴う土地建物の仲介等を依頼されることが多かったからである。さらにその後、昭和50年からサッシ販売の特約店として、建築資材の販売にも参入した。商品を販売するだけでなく、製造から取付けまでを行うことで、地域のお客さまと直接接点を持てるという点に魅力を感じていた。その後、昭和50年代中盤から完全に現在の事業へ移行した。
事業承継
私(田辺社長)が平成9年に入社し、平成19年に代表取締役社長に就任した。ちょうど、前年に世間を騒がせた構造計算書偽造問題が起き、建築確認が厳格になった時期であった。その後、リーマンショックによりさらに住宅着工件数は減少し、国内の需要は急減した。そのような外部環境の中、当社も事業の見直しを迫られた。そこで、当時町田にあったサッシ製造工場を手放すことにした。この工場は、当社の売りの1つでもあったが、事業全体を考えると弱点でもあったからである。このように、古い事業の整理をしながら、団地のリノベーションや指定管理者への参入など新たな事業にも積極的に取り組んでいる。これは、子どもの頃から「企業30年説」を現会長より聞いていた影響が大きい。この考え方は、当社の企業文化としても根付いている。
自社の強み
地域に根差していることが当社の変わらない強みである。糸商時代も現在も、地域のお客さまを大切にしてきた。地域に密着して事業を行ってきたことで、団地の再生や、指定管理者への参入も地域の隠れた資源や資産をいかに活かすかという観点から考えることができる。
建設業界の動向
23区内では、不動産バブルが起きており、投資用マンションの建築が活発である。一方で、多摩地域はそこまでの勢いがないように感じる。各社の完工高から多摩地域のマーケット規模を把握し、自社の受注状況を判断しているが、5年前と比較すると市場は縮小している。企業の設備投資は増えてきていると感じる。リーマンショック以降、案件が少ない状況が続いていたが、ここ2年は工場の増築・増設などの受注が増えてきている。
不動産業界の動向
人口減少時代を迎え、賃貸住宅の需要が低下していく中で、空室率をいかに下げるかということが大きなポイントとなる。当社では、資産価値の向上に積極的な投資を行うことが重要であると考えている。リノベーションによって、これまで23区内に住んでいた人が移り住むケースもある。我々の「多摩地域はファミリー層が住むところ」という固定観念にとらわれず、新たな層を取り込む工夫が必要である。
今後の事業展開
人材育成が重要な課題である。若い人材を育てることが難しいと感じている。新たな事業を計画した時に、動ける人材を育てたい。また、人口減少時代を迎え、今後の不動産市場規模を考えると、新たなものをどんどん建てていくというより、今あるものを活かしていくという考えで事業を行わなければ衰退していくと考えている。これまで積み上げてきた地域に根差した事業展開により、安定的な収益を上げ、事業を継続してくことが地域に対する責任であると考えている。
(インタビュー日時: 2018年3月13日)
たなべ物産株式会社
代表取締役社長: 田辺 裕康
本社所在地: 東京都八王子市元本郷町4-8-10
業種: 建築資材販売業・不動産賃貸業